相続税ケーススタディ|配偶者の特例から二次相続・生前贈与まで

相続が始まってからできる、節税対策の運用事例(佐藤さん一家の場合)

相続税の節税対策には、いろんな方法があります。

最も節税効果が高いのが「配偶者の特例」いわゆる配偶者控除です。

配偶者の特例とは、故人の配偶者(法的な婚姻関係にある奥さん、旦那さん)が相続をするとき、

  • 1億6000万円
  • 法定相続分

のどちらか多いほうまでなら相続税が免除される、という制度です。

この特例を利用するためには、基本的に相続税の申告期限までに遺産分割を終えておく必要があります。

今回は、この配偶者の特例をフル活用して、節税を目指すケースを考えてみましょう。

条件設定

佐藤さんの家は、地元では名家と呼ばれるお家です。先祖代々土地や建物などを相続してきたので、遺産総額は10億円にものぼります。

そんな佐藤さんのお父さんが亡くなってしまいました。相続人は、佐藤さんとお父さんの配偶者である佐藤さんのお母さん、あと弟2人を加えた合計4人です。

遺産の内訳を調べてみたところ、毎年の固定資産税の支払いなどによって、残っている現金は1500万円だけでした。どう分配しても、相続税の支払いをするには足りそうもありません。そこで、佐藤さんは次の家長として節税に取り組むことを決めました。

土地の評価減から手をつける

税理士に節税の相談をしたところ、配偶者の特例をフル活用するために、まずは豊富にある土地の評価減と整理から行うことになります。

相続財産は、どう役立てて良いのかわからない山林、賃貸物件、駐車場がほとんどです。佐藤さんのお父さんは、生前先祖から受け継いだ土地にマンションを建てたり駐車場にしたりして、一定の不動産収入が得られるようにしていたのです。

賃貸マンションやアパートを建てている土地をよく見てみると、畑、建物、私道、駐車場などに分割して考えられるので、それぞれの土地を分割して再評価をしていきます。

畑や私道に関しては、敷地の形が良くないので不整形地として6000万円評価減。

がけに接している土地もいくつかあり、がけ地として1000万円評価減。

駐車場は借りている人がいて自由に売却等できないことを考えて、そのぶん2000万円評価減。

建物の相続は、小規模宅地等の特例を利用することに。駅前一等地にある自宅は6400万円の評価減。貸付事業用宅地等に相当する賃貸物件は、5000万円の評価減。

以上合計で、2億と400万円の評価減です。

つまり、遺産の合計額が10億円→7億9600万円になった、というわけですね。

配偶者の特例を活用して大幅減税を目指そう

不動産の評価額は、できるかぎり小さくしました。ここから活躍するのが、配偶者の特例です。

家族間で話し合った結果、佐藤さんのお母さんがまだまだ元気なので、法定相続分どおり遺産の半分を相続してもらいます。

残った半分の不動産は家長となる佐藤さんがすべて相続し、その代わり弟2人には代償金として現金を渡す、という結果になりました。

さて、佐藤さんのお母さんは故人の配偶者なので、配偶者の特例が使えます。

このケースの場合、配偶者の法定相続分2分の1どおり相続をするため、7億9600万円の半分、3億9800万円ぶんは相続税が0円となるのです。

佐藤さんら兄弟3人が、残った3億9800万円に対する相続税を納めれば相続は終了です。

兄弟3人が等分で相続をするとして、相続税の計算をしてみましょう。

すると、納税額は一人あたり3246万円。全員で約9740万円くらいとなります。

もしなんの節税対策も取らなかった場合、相続税は3億3470万円かかっていました。

不動産の評価減をして配偶者の特例を適用しなかった場合は、2億4000万円ほどです。

比較してみると、「不動産の評価減+配偶者の特例」によって、2億円以上も節税できることがわかります。

二次相続のリスクを踏まえて、どう対応するのが一番か考える

配偶者の特例を利用すると、大幅に節税できます。

ただし、配偶者の特例には二次相続という大きなリスクもあるので注意しましょう。

今回は、お父さんの遺産をお母さんが配偶者の特例を使って節税できました。では、佐藤さんのお母さんが亡くなってしまったらどうなるでしょうか?

配偶者の特例を利用できない状態で、数億円の遺産相続をしなくてはならないのです。

場合によっては、配偶者の特例を使わず、あえて子供が大きな相続をしておいて、母から子への相続が少なくなるよう調節したほうが良い、なんてこともあるので、相続時は将来のことも考えるのがおすすめです。

配偶者の特例からの生前贈与で二重の節税を

配偶者の特例をフル活用する場合、二次相続に備えて遺産相続後お母さんから子供たちへ生前贈与をしてもらうと良いでしょう。

暦年贈与で現金を移すのも手ですし、不動産を処分したり、整理したりして相続しやすいよう整えるのも手です。

自分の次に相続する人が楽をできるよう節税をしていくのが、一番効果の大きい節税対策につながります。