相続事例紹介|農業を縮小して一部の畑に賃貸住宅を建てる

後継者がいない農家は、畑を使った節税を考えよう!

「代々地元で農業をやってきたけれど、もう年だし、子供たちは農業に興味もないようだ」

なんて場合、「持っている土地に対する節税」を考えないと、土地を手放すことになってしまうかもしれません!

相続において、「農業」をしている場合は優遇してもらえます。

「農業をしていた人が亡くなって、相続人が継続して農業を続けていく」のであれば、納税の猶予や免除といった措置を利用することができるのです。

農地というのは土地ですから、そのまま評価額を計算して相続税を課税するとものすごく高額になってしまい、納税できずに土地を手放す人が増える=日本から農家がいなくなってしまうからです。

しかし、「あなたがやっている農業の後継者がいない」場合、こうした納税猶予や免除制度が利用できないので、節税対策を考えたほうが良いです。

自分の生活のためにある程度の畑を残しつつ、将来家族に土地を残すためにはどうすれば良いのか? 今回は、

  • 潰しても構わない土地に賃貸物件を建てる
  • 賃貸物件の建築費用は銀行から借入をする

という方法で節税をした、前田さん一家の事例をご紹介します。

土地を守るため、納税資金を用意するために畑を利用した前田さん一家

前田さんは、地域でもかなり有名な農家です。

先祖代々農業をしているため、高額な農業用機械や広い土地、たくさんの農地で10億円ある財産の90%が占められています。

子供は2人いますが、どちらも一般企業のサラリーマン。農業を継ぐ意思はありません。

農業は自分の代までとして試算をしてみると、「配偶者の税額軽減」を利用した場合でも2人の子供たちに合計「1億6020万円」の相続税が課税されてしまいます。

財産の90%が不動産ですから、現金は1億円ほど。このままでは奥さんにも子供にも現金は残してあげられない。むしろ、先祖代々の土地を売ることになってしまうかもしれない。

そこで前田さんは「土地が残れば良いのだから、一部の畑を賃貸物件に転用」することに決めました。

後継者のいない畑に賃貸住宅を建て、評価減を狙う

前田さんが持っている畑のなかで、収入の大部分を得ているのは2つでした。

一方は大規模栽培で地元のレストランやスーパーなどにも商品を卸している畑、もう一方は採算度外視で良いからと、美味しい野菜を作ろうと地道に弄ってブランド化に成功した畑です。

これらの畑があれば前田さんの収入は確保できることがわかったので、実験的に野菜を作っている広い土地を一つ潰すことにしました。

どうして賃貸なのかというと、賃貸物件を建てることで、

  • 土地の評価額を農地→貸家建付地評価にできる
  • 農地の売買は難しいが、宅地や貸家建付地なら売買しやすくなるので、相続後の財産整理も楽
  • 建てた賃貸マンションの評価額は大きく下がる
  • 物件を建てるときの建築費を借入でまかなうことで、相続財産から控除できるようになる

などなど、いくつものメリットを手にできるからです。

入居者を確保するために、「どんな賃貸が良いか」じっくりと調査すべし!

一つ注意したいのは、「畑にどんな賃貸物件を建てるのか」です。

いくら広い土地にどーんと大きなマンションを建てたところで、入居者が集まらなければ家賃収入につながりません。

前田さん一家の場合、近くにペット可物件がなかったので、差別化するために「ペット可」「間取りが豊富」「入居者のみが利用できるドッグランの設置」といった物件を建てることにしました。

この選択は大当たりで、入居者を募集してすぐに部屋が埋まりました。

前田さん一家が手に入れられる今後の現金収入と評価減はいくらになる?

賃貸物件を建てるのに、前田さんは3億円かけました。すべて銀行からの借入金です。

全25戸の賃貸マンション、家賃が平均で6万5000円としてで、入居者の半数は敷地内につくった月7000円の駐車場を契約するとします。

細かい計算は省きますが、賃貸マンションの評価額は、固定資産税評価額と借家としての評価減から、2億5千万円×0.5×0.7=8750万円に。

5000万円は諸経費として使っており、借入金は3億円なので、この時点で前田さんの財産の総額から、3億円-8750万円=2億1250万円控除できます。

しかも、駐車場部分は貸家建付地評価ができるのでさらに1000万円評価減。

簡単にいえば、相続財産の金額が「10億円から7億7750万円」に減ったわけです。

ちなみに、このときの相続税額は、兄弟合わせて「1億1190万円」、おおよそ5000万円近く節税できる計算です。

しかも、毎月の家賃収入はおよそ170万円。ローンの返済をしても十分プラスです。

賃貸収入が将来の納税資金(現金)になりますので、将来土地を売る必要もありません。

畑を一部賃貸に転用することで、前田さん一家は「手持ちの現金を使わず、現金収入を得て納税資金を用意し、土地の評価額を落とす」とお得に節税できたのです。