資産が多いケース|相続的な意味で整理・節税した財産を妻や子へ

財産の多い資産家が考えるべき節税対策の一例

「会社を経営している」

「高収入な職に就き、かなりの私財を築いている」

などなど、経済的に成功している人のなかは、「財テク的な意味での資産の活用」は完ぺきでも、「相続的な意味での資産の活用」は見落としてしまっている場合があります。

どんなにたくさんの財産を築いたとしても、節税対策をおこたっていては家族に財産を残せません。

今回は、「所有している財産を、相続的な意味で整理して節税」する森さんという一家を例に、贈与を使った生前の節税対策を見ていきましょう。

生前贈与と資産の組み替え、特例を組み合わせて節税に備える森さん一家

森さんは若くして起業をし、3億円の資産を築いています。

子供に会社の経営を譲ることも考えはじめたとき、ふと「このままでは相続税がかなりかかってしまうのでは?」と気が付きました。

森さんが亡くなると、相続人になるのは同い年の奥さんと、3人の子供たちです。

とくに、森さんの奥さんは専業主婦なので個人の資産をほとんど持っておらず、万が一奥さんのほうが先に亡くなってしまった場合、税の負担が大きくなってしまいます。

そこで、「自宅は奥さんに、現金は子供たちに贈与」したうえで、節税を考えていくことにしたのです。

奥さんに自宅の土地2110万円を非課税で贈与する

長年連れ添ったご夫婦のあいだで、「住宅資金や住宅を取得するための贈与」を行った場合、最大2000万円までは贈与税が非課税になります。

俗に贈与税の配偶者控除と呼ばれる特例で、贈与税の基礎控除110万円も含めると、実際には「2110万円まで非課税」で贈与できるというわけです。

森さんと奥さんは結婚してから30年、十分に資格を満たしているので、自宅の土地6000万円のうち、「2110万円ぶん」を贈与することにしました。

手続きとしては、土地の所有権を一部森さんから奥さんに書き換えるだけなので、かなり手軽かつ効果の大きい節税対策です。

自宅は奥さんに相続してもらい、「小規模宅地等の特例」を使う

森さん夫婦は、自宅で2人暮らしです。

子供たちとは同居する予定がないので、自宅は奥さんに相続してもらう予定です。

森さんが所有している自宅の土地は3890万円ぶんですから、相続がはじまったときに奥さんが「小規模宅地等の特例」を使えば、

自宅の評価額=3890万円×0.2=778万円

と、80%評価額を安くできます。

子供たちへは非課税の範囲で「住宅資金の贈与」をする

森さんが所有している財産は、自宅のほかに5000万円の賃貸不動産が3つ、預貯金が4000万円、有価証券が2000万円に、生命保険金が3000万円となっています。

このうち、現金に関しては持っていても節税にならないので、3人のお子さんたちへ生前贈与しておくことにしました。

ちょうど3人ともマイホームを建てる予定だったので、親から子へ、「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」を利用します。

これは、両親や祖父母から子供へ住宅資金の贈与を行う場合、ある程度まとまった金額までは非課税にできるという特例です。

住宅資金の贈与を行ったのは平成24年のことだったので、「1000万円ずつ、合計3000万円」を非課税で贈与できました。

※いくらまで非課税になるかは、贈与した年度や住宅によって異なります。

収益性の低い賃貸を、収益不動産に組み替える

総額1億5000万円ある賃貸物件のうち、1つだけ最近空き家が目立っています。築年数も経っているし、駅からも遠くあまり人気がありません。

このまま持っていても大規模な補修や固定資産税の支払いで損をしてしまうので、古い賃貸は手放すことにしました。

賃貸を売ったお金を原資に銀行から2000万円を借り入れ、リスク分散のために「3500万円で購入できる、好条件の賃貸物件を2戸」購入します。

マンションの評価額は購入額のおよそ40%程度になるので、

マンション2戸ぶんの評価額=(3500万円×0.4)×2=2800万円

です。

では、ここまでの結果をまとめてみましょう。

相続税額は「5080万円」から「763万円」に節税!

もし、森さんが資産3億円のまま節税をしていなかった場合、相続税額は「5080万円」かかりますが、今回は贈与を中心に節税対策を行いましたよね。

その結果、財産の評価額は「1億9578万円」まで減額できるのです。

ここからさらに、「配偶者の税額軽減」と「相続人×500万円の生命保険の控除」を計算すると、節税対策後の相続税額は、

  • 「配偶者の税額軽減」で奥さんの相続税はゼロ
  • お子さん3人ぶんの合計で「763万3500円」

途中の計算はかなり省略していますが、以上のようになります。

ついでに、お子さんが500万円ずつ生命保険金を受け取るようにしておけば、納税資金にも不足はありません。

贈与を活用すると、このように財産の形をほとんど変えずに大きな節税が可能なのです。

節税対策は、早め早めに打ちましょう。