後継者のいない農家の土地売却や資産組み替えは専門家に相談

農業をしているが、農業の後継者がいない人向けの節税対策

実家が農業をされている、もしくは、ご本人が農業をされているという方にとって、簡単でありながら難しいのが相続の問題です。

じつは、農業従事者の相続に関して、「相続人が農業を数十年継続するのであれば」相続税の納付が猶予されたり、免除されたりします。

 後継者さえいれば節税対策にこだわる必要もなく、相続税を考えずに遺産相続をできますが、一方で、「農地を相続する人が農業をしない場合」通常通り相続税がかかるのです。

農地は一般的な宅地よりも広い土地を利用していることも多く、後継者のいない農業従事者がそのまま相続をさせるのはとてもリスキーな選択です。

そんなわけで、「多くの農地と財産を持っていて、後継者がいない沢木さん一家」の節税事例を考えてみましょう。

農業を続けられなくなり、農地の処分で節税を目指す沢木さん一家

沢木さんは、いまでいう脱サラをして農業をはじめた方です。ご夫婦ともに健在ですが、そろそろ年齢も年齢なので足腰や視力も弱ってきており、体を酷使する農業は続けられないな、と思っています。

沢木さんご夫婦には長男、次男、長女と3人のお子さんがいますが、全員一般企業に就職をされており、農業を継ぐ意思はありません。

沢木さんは農家になってからの数十年間、お金に余裕ができると農地を買い広げてきました。近隣、遠くの農地も含めて総額20億円の財産を所有しており、節税対策は必須です。

市場価格と評価額を比べて、生産緑地を売却することに

真っ先に考えるのは、「農地の売却」です。農業を継ぐ人がいない以上、農地をたくさん持っていても仕方がありません。

特に、沢木さんの場合固定資産税が普通の宅地よりずっと安くなる「生産緑地」の指定を受けた畑をメインの農地としています。

業者を使って調査をしたところ、「生産緑地」は残念ながら市場価格よりも相続財産としての評価額のほうが高いことがわかったので、生産緑地の指定を解除し、土地を売りに出しました。

農地の売却は買い手がなかなか見つからず大変なりがちですが、沢木さんの農地は周囲が住宅街になっています。

立地や周辺環境としては宅地に転用しやすい土地だったので、すぐに「2億円」で売却できました。

もともとの農地としての評価額が2億5000万円だったため、「5000万円の評価減」です。

農地を売ったお金で賃貸マンションを建てる

ただ単に農地を売り払って現金を手に入れただけでは、売却代金に応じた譲渡税がかかります。

そこで、農地を売ったお金で賃貸マンションを建てることにしました。

 農業から賃貸業への買い替えですから、「事業用資産の買替えをするときの特例」をつかって、譲渡税の納税を猶予してもらいます。

2億円で購入できる賃貸マンションを探して購入すると、評価額は「1億4400万円減」ですね。

節税効果が足りないので、別の土地に賃貸マンションを建築する

生産緑地の売却と賃貸マンションの購入で、「1億9400万円」評価減できていますが、なにせ財産総額が20億円の沢木さんです。まだまだ節税が必要なので、また別のマンションを建てることにします。

以前から「新規店舗をオープンさせたいので、土地を譲ってくれないか」と話を持ちかけられていた駐車場がありました。

そこで、「1階部分をテナントとして会社に貸し付け、2階以上を賃貸住宅としてマンションを建築する」という話をしてみたところ、とんとん拍子で契約が進むことに。

法人との賃貸契約なので、10年20年という長いスパンで安定した家賃収入が見込めます。

また、安売りスーパーと駅が近いので、単身者からの人気もありすぐに部屋は埋まってしまいました。

マンションの建築費用は、銀行からフルローンで7億円借り入れます。

かなり広い土地ですが、賃貸物件の建築に伴って「マンション専用駐車場」も整備しなおすことで、「5億2800万円」の節税に成功です。

自宅の相続は「小規模宅地等の特例」を利用するとして「8000万円の評価減」、つまり20億の財産は、「11億7800万円まで評価減」となります。

沢木さんの奥さんが「配偶者の税額軽減」をつかえば、「実質6億円に対する相続税」の納付で良くなるので、大きく節税できました。

後継者のいない農家の相続は、必ず専門家に相談しよう

後継者のいない農家の方は、節税のために財産の構成を大きく変えることになるケースも少なくありません。

農地の売却や生産緑地の解除にも時間はかかりますし、沢木さんのように農地がすべてご自身の財産というのではなく、「親から農地などを相続している」場合、農業をしている期間によって、農業をやめることで猶予していた莫大な相続税を課税されるリスクもあります。

財産の運用や節税の方法については、税理士に相談したうえで決めるのがおすすめです。