広大地評価と納税猶予|相続開始後でも可能な農家の節税対策

節税対策をしていなくてもできる!農家の方向け節税方法

専業であっても兼業であっても、農家の方が亡くなった場合、相続トラブルになりやすいって知っていますか?

農家の方が亡くなられると、当然遺族が農地を相続することになりますよね。

この農地というのは、権利関係や利用方法などが法律でガチガチに固められていることが多く、処分や活用が難しい財産なのです。

農業を継ぐ人とそうでない人とで権利関係のトラブルになることもありますし、しかも、農業の後継者がいない場合かなり高額な納税を課せられてしまいます。

節税対策として見たとき、農家の相続で一番良いのは「農業の後継者がいる」ことです。

農業後継者がいるかどうかで、亡くなった方が生前節税対策をしていなかった場合に取れる節税対策もだいぶ違ってくるのです。

今回は、「専業農家として、農家の親から農地を含む財産を相続する金田さん」という事例で「相続開始後にできる、農家の節税対策」を見ていきましょう。

専業農家のお母さんから8億円の財産を相続し、農業を継ぐ金田さん

金田さんの家は、おじいさんの代からずっと専業で農家をつづけています。

ただ、金田さんのお父さんは古くに亡くなってしまっており、実家の農業は金田さんのお母さんと金田さん、そして金田さんの奥さんの3人で切り盛りしている状態です。

そんななか、漠然と節税について考えているあいだにお母さんが亡くなってしまいました。

残された財産の総額は8億円、このうち農地は4億円、現金は5000万円、金田さん夫婦も同居していた実家が2000万円、残りは大小さまざまな土地となっています。

財産のほとんどが土地であり、相続人は金田さん一人だけです。

もしこのまま相続をしてしまうと、金田さんは「3億4820万円」もの相続税を課税されてしまいます。

相続なんて大したことないだろうと構えていた金田さんも、これには驚き、慌てて相続税の申告期限までにできる節税対策に取り組むことにしたのです。

「広大地評価」によって土地の評価額を約半分に減額

まず、「広大地評価」をするために広い土地を探します。

単純に広いだけではダメでいろいろ適用条件があるのですが、不動産鑑定士を呼んで現地調査を行いました。

メインで利用している農地や駐車場など、いくつかの土地が広大地にあてはまることがわかったので、早速手続きに進みます。

結果として3億5000万円ぶんの農地と2億円の駐車場を広大地評価で減額し、「2億9700万円の評価減」を果たしました。

ちなみに、「広大地評価できる農地」は限られています。

農地にも周辺環境などによって種類がいくつかあって、例えば「市街地農地」や「市街地周辺農地」などであれば広大地評価して大幅に評価額を安くできるのです。

一方で、持っている農地の種類によっては広大地評価できない場合もありますから、必ず調査が必要です。

「小規模宅地等の特例」で自宅を減額

自宅の宅地は3000万円で、金田さん夫婦がもともとお母さんと同居をしていたことから「小規模宅地等の特例」が利用できます。

小規模宅地等の特例を利用すると宅地の評価額は20%まで減額されるので、「2400万円の評価減」となります。

農業後継者として農地を相続し、農地に対する税金を猶予する

最初のほうで、「農業後継者がいたほうがより節税になる」ということを書いていますよね。

この点に触れておくと、じつは、農業後継者が農地の相続をする場合、農地に対してかかる相続税を猶予してもらえるからなのです。

「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」というのですが、これまた複雑な適用条件があるものの、農地部分の相続税を支払わなくても良いというのは大きいですよね。

ここまでの節税効果をまとめると、「3億2100万円の評価減」であり、相続税額は「1億7950万円」となります。

割合で考えると、農地ぶんにかかってくる税額は「7898万円」です。

金田さんは後継者として今後も農業を続けていくので、実質的に相続税の支払いは「1億と52万円」で良い、というわけです。

納税資金として土地の売却を行い、現金を手に入れる

広大地評価と納税猶予の特例があっても、現金は5000万円なので相続税は支払えませんよね。

なので、農地と自宅を除く「1億円ぶんの土地」を売却して現金を作りました。

不動産売買の手数料や売却額によって多少金額は変わりますが、1億5000万円あれば納税しても金田さんの手元にお金は残りますし、土地という不動産を持っていることに対する毎年の固定資産税もかからなくなります。

生前に節税対策をしていなくても、広大地評価と納税猶予、ついでの小規模宅地等の特例で「1億6870万円」もの節税ができたのです。