鑑定評価と納税猶予|生産緑地の解除で一部農地を売却して節税

農業を続けるかどうか不安な人は、「生産緑地」の解除も一つの手

「跡を継いで農業を続けたいが、いつまでできるかちょっと不安」

というのは、農家に生まれた人、農家に嫁いだ人たちに共通する思いではないでしょうか。

「生涯現役だ!」と鼻息を荒くしたところで、現実的に考えてずっと農業で食べていけるかどうかは誰にもわからないからです。

農業は天候や土壌の状態、市場によって売上や収穫が大きく左右されてしまうもの。

基本的に肉体労動なので、若いときは良くても年を重ねてから続けるのはつらい仕事です。向き不向きの問題もあるでしょう。

国としては農業を続けて欲しい、農家を保護したいという意思があるため、さまざまな優遇措置や法律の特例を用意しています。

これらの特例は、農業を続けているあいだはとても心強い味方なのですが、「農業はきついしもうやめる」なんてことになった場合、一転して厄介な強敵になってしまうものでもあるのです。

そして、農地には「生産緑地」という制度があります。

生産緑地に指定した土地は、固定資産税がものすごく安くなって農地を強力に守ることができる一方、

  • 普通の土地のように自由に売り買いできない
  • 基本的にずっと農業を続けなければならない

というデメリットもあります。

「生産緑地」に指定された農地を相続すると、ざっくりいって今後30年は農業を続けなければなりません(農業をやめるとものすごく損をする)から、「農業を続けるかどうか不安」な場合は、相続のさいに生産緑地の指定を解除する、というのも一つの手なのです。

今回は「生産緑地の指定を外し、節税しつつ農地をやめるという選択肢を残した三村さん」という事例を見ていきましょう。

今後ずっと農業を続けられるか不安な、農家の長男三村さんの節税事例

三村さんのお宅では、お父さんを中心にいくつか農地を買い上げ、農業を行っています。

そんなお父さんが亡くなって相続がはじまったのですが、三村さんのお父さんは農地を増やすこと、守ることに熱心だったので、郊外の農地を「生産緑地」に指定していました。

三村さんとしては農業を継ぐことに異論はないものの、知り合いの農家が生産緑地を持っていたために農業をやめられず、悩んでいたことが気がかりです。

じつは、生産緑地の指定を解除できるタイミングは決まっており、相続するときに指定を解除しなかった場合、三村さんは農業をやめたくてもやめられなくなってしまうのです。

考えに考えた結果、「農業をやめたくなったときのため」思い切って指定を解除し、普通の農地として相続することにしました。

お父さんからの相続財産は4億2000万円、三村さんと三村さんの弟さんの2人で相続を行いますが、お父さんは節税をしていなかったので、相続税は「1億1720万円」かかる計算です。

ここから、土地の鑑定評価と納税猶予を使って節税していきます。

不動産鑑定士による鑑定評価で土地の評価減

財産4億2000万円のうち、80%が土地です。

農地が一番多いのですが、農地以外にも三村さんのお父さんが相続で受け継いだ土地や、なにかに使えるかと思って購入したままの土地も含まれていますので、不動産鑑定士にお願いして手持ちの土地をすべて調査してもらいました。

すると、大雨で一部がけ地になってしまっている土地、埋蔵文化財包蔵地に指定されている土地、セットバックが必要な土地、無道路地、不整形地があることがわかったので、鑑定評価をしてもらいます。

路線価や倍率方式よりも鑑定評価のほうが安くなった結果、合わせて「1億1290万円の評価減」となりました。

農業従事者として納税猶予を受け、課税額を抑える

三村さんは、生産緑地の指定こそ解除しましたが、農業をつづけていくつもりですので相続した農地への相続税は猶予することができます。

課税される相続財産の総額は、「1億1290万円」減額されているので「2億8710万円」です。

相続税額を計算すると、「6404万円」になります。

当初の納税額とくらべるとかなり節税できていますが、納税額は安ければ安いほうが良いので、さらに農地に対する相続税「3137万円」を猶予してもらいましょう。

最終的な納税額は、三村さん兄弟2人ぶんで「3266万円」まで下がります。

ついでに、生産緑地の指定を解除した郊外の農地は地目を宅地に切り替えてから売却しました。

生産緑地の指定を解除したことで次年度の固定資産税が跳ね上がってしまいますし、現金があるほうが相続がおわったあとの生活にも余裕ができるからです。

「生産緑地」の指定を解除すると二度と戻せないので、先祖代々の農地が「生産緑地」になっているケースも少なくありません。

生産緑地の指定を解除するかどうかも含めて、迷っているなら税理士に相談してみてことをおすすめします。

客観的にメリットとデメリットを比べることで解決策が見えてきますし、手続きを任せることで相続をスムーズに進められるからです。