相続財産を前渡しできる制度
「親として、子供が困っているときは援助をしてやりたい」「だけど、たくさん贈与をすると贈与税がかかってしまうから、思うように援助ができない」
そんな悩みを解決するためにあるのが、「相続時精算課税制度」という制度です。
人生のなかで、たくさんのお金が必要になるタイミングというのがいくつかありますよね。
マイホームの購入をするとき、子供の大学進学資金が足りないとき、重い病やけがの治療にたくさんのお金が必要なとき。そんなとき、両親や祖父母から援助が受けられればとても助かりますし、ありがたいです。
家族間のお金の融通に税金がかからなければ話は簡単かもしれないのですが、残念なことに法律上誰から誰にお金を渡すときでも、その金額に応じた贈与税がかかってしまいます。
そして、基本的に贈与税はとても高いのです。
贈与税の納税がいかに大変なのか
例えば、成人して結婚した子供がマイホームを建てようとしているので、手助けするつもりで親御さんが現金2500万円を贈与した場合を考えてみましょう。
親から子への贈与なので、特例贈与財産用として、通常の贈与税より低い税率で計算します。
3000万円以下の贈与は控除が265万円、贈与税の税率は45%になるので、
(贈与の金額-控除)×税率=(2500万円-265万円)×45%=1005万7500円
と、1000万円以上も納税する必要があります。
2500万円も用意したにも関わらず、実際には子供に1500万円も渡せません。
贈与税は基礎控除があるので少額の贈与にはやさしいものの、高額の贈与に対する税率はとても高く、たくさん贈与したいという動きを阻害してしまうという状況になっています。
ただ、そうなると生前贈与そのものが減ってしまい、若い人があまりお金を使わなくなってしまいます。それでは困るので、各種の特例や制度が作られているというわけです。
なお、2015年から適用されている贈与税や相続税の改正も、多くは生前贈与を後押しする方向に向かっています。
相続時精算課税制度の利用条件
相続時精算課税制度は、「2500万円までは非課税で贈与できますよ。ただし贈与した金額は相続財産に上乗せして相続税を計算しますよ」という制度です。
より詳しく説明すると、
- 60歳以上の両親・祖父母が
- 20歳以上の推定相続人(相続人になれるであろうという人)やお孫さんに対して
- 総額2500万円までは贈与税を非課税で贈与できる
という内容になっています。
利用の条件さえ守られていれば、贈与の方法や回数に制限はありません。例えば、今年1000万円贈与して、来年は500万円贈与する。再来年にまた1000万円贈与して、ということも可能です。
贈与は現金や不動産を渡すことができる制度なので、現金以外に住んでいる家を渡したり、賃貸マンションを渡したりすることもできます。
2500万円以上の贈与をした場合、贈与をした総額から2500万円を差し引いた金額に、20%をかけた金額を贈与税として納めなければなりません。
また注意点としては、一度相続時精算課税制度を利用する手続きをすると、いわゆる暦年贈与(年間110万円までは非課税で贈与ができる)はできなくなる、という点があります。
毎年110万円ある贈与税の控除を取るか、生涯に渡って与えられる2500万円の控除を取るか、選べるのはどちらか二つに一つということです。
どんな場合に節税になるのか
相続時精算課税制度は、今贈与税を支払わなくて良い代わりに将来相続税を支払うという制度です。なので、単純に現金を2500万円贈与するだけでは節税にはなりません。
この制度を利用することによるメリットは、
- 将来価値が増える資産、収益性のある資産を安く贈与できる
- 一度にたくさんの贈与を難しいことを考えずに行える
- 相続させたい相手に、好きな財産を争わせずに渡せる
などです。
節税として効果が出るケースは、「プレミアがついているもの」「プレミアがつくもの」を考えるとわかりやすいです。
手近なところで、音楽CDを例にしてみましょう。あなたは相続時精算課税制度を使って、お父さんから大量のCDをもらいました。その中には売れないインディーズバンドが50枚だけ作った一枚2000円のCDがあります。
その10年後お父さんが亡くなり、相続をすることになりました。なんとあのときの売れないインディーズバンドは世界的ヒットをばんばん飛ばす超有名アーティストになっていて、彼らがインディーズ時代に作った一枚2000円のCDは、10万円で取引されています。
このとき、相続税の計算は、贈与を受けたときの資産価値で計算されます。つまり、10万円の音楽CDを、2000円で計算して相続税を出して良いのです。
もし、相続時精算課税制度で大量の音楽CDをもらっていなければ、相続税を計算するときは一枚10万円の高額CDとして相続税の計算が行われます。
贈与を受けたときより価値が上がった分、大きく節税ができていることになります。
ただ、やり直しのきかない制度なので、利用する際は税理士などと良く相談して制度を使ったほうが得なのか吟味するのがおすすめです。
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